« ズ07 とびだせズッコケ事件記者 | トップページ | ズ09 ズッコケ財宝調査隊 »

2006年12月30日 (土)

ズ08 こちらズッコケ探偵事務所

Back08

「困ったら確実なネタに戻ってやり直す、大事なのはこれだよトリュフォーくん」byヒッチコック(意訳)

第8巻。1983年11月刊です。
第2巻以来、王道の探偵ものが帰ってきました。

タイトルには「事務所」とありますが、事務所を構えて捜査依頼を受けるような話ではありません。前作と違って三人が事件の当事者になりますから、推理ミステリーらしさは薄くなります。なんと、モーちゃんが誘拐されるんです。

刺激される探偵スピリットについては、前作でさんざん吹きましたからやめます。

この巻、悪者のアジトが商店街にある人形店の奥の家だという点に、滋味の要所があります。
大型店舗がまだ少なく、小さい商店がいくらでもあった頃、そういうアジトになりそうな店がままあったことを思い出しました。何も知らない子供だからこその印象ですが、いかにも怪しい店です。
薄暗く中がよく見えなくて、客が入ってるのをほとんど見ない、いかめしい感じのする店。写真館とか時計店とか古物商とか、子供だけでは入らないから余計に不気味に見えた店。奥では非合法組織が秘密活動をしていて、入ったらもう出てこられないというような想像をしながら、その前を通っていたお店が誰にでもあったと思います、たぶん。ないと話が続かないので、あったとします。

で、僕が感慨をおぼえたのは、大型店舗によって地域の商店街が破壊され細やかな色合いが街から消えてしまったことへの悲嘆とか、そういうことではありません。
この、日本を代表する傑作シリーズの、王道探偵モノにあって、その舞台が多くのガキんちょの想像と大差ないところに設定されていることが、僕には感慨深かったのです。昭和50年代、多くの小学生にとって「怪しい店の奥の部屋」は、別世界の架空の話ではなく、身の回りですぐ思い当たる場所だったはずです。
アジトだけではありません。
今回の犯人は、全国組織の詐欺団所属の三人組ですが、ボスは髭もじゃらの男です。三人ともサングラスをしています。組織が扱っているのは宝石です。秘密の取引があります。目印は一本の花です。宝石は人形の箱に隠されています。
……このように、全編、奇を衒わない、誰でも考えるような設定ばかりなんです。貧しいイマジネーションしか持たない子が、眠れない夜に思い描くドラマと大差ない道具だてと言ってもいいくらいです。

これに気づいたとき、僕は唸りかけました。大人がズッコケを読む意義がここにあります。斬新さや珍しさが問題にならない世界があることを確認するのが、貴重な体験なのです。
ズッコケにあって、奇抜なアイデアや斬新なストーリーは本来必要ないのです。ない方がいいのではなく、あってもなくてもどうでもいいという意味です。類型的であることを厭う必要がない充実、自他の差ではなく情感の絶対値だけに焦点をおく態度があるだけです。その態度をトレースすることが、そのままズッコケを読むということになります。
これは、個性とか独創性といった、自意識の成長に伴う価値観を汚いものと断じ、無邪気とか屈託のなさを殊更に賞賛することで何か解放された気になることともまったく別の経験です。

相手の顔や服装は帰宅後すぐ忘れたけど、すごく刺激的な時間を共有した実感だけはいつまでも残るという経験は、思春期以後なかなかできません。個性的な人と没個性に開き直った人ならいくらでもいますが、類型的であってなお存在感のある人というのはなかなかいないということです。
「サラリーマン稼業にもほとほと疲れた」という同世代人の誰か、この冬休みのうちに変身して、七三分け黒縁眼鏡で新年から出勤してみませんか?類型、それも古い型にきっちり嵌まることで、特殊な解放感と焦点の定まった効率的なエネルギー消費を体験できるかもしれませんよ。

|

« ズ07 とびだせズッコケ事件記者 | トップページ | ズ09 ズッコケ財宝調査隊 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/191777/13266644

この記事へのトラックバック一覧です: ズ08 こちらズッコケ探偵事務所:

« ズ07 とびだせズッコケ事件記者 | トップページ | ズ09 ズッコケ財宝調査隊 »