ズ20 大当たりズッコケ占い百科
第20巻。89年12月刊です。
タイトルは「占い」ですが、星座や血液型はほとんど登場しないし、ダミ声の老婦も出てきません。もっと陰気なお話です。
はじまりは「おまじない」です。クラスの女の子が、先生のお説教が早く終わるようにと、机の下の足で妙な記号を描くのを、モーちゃんが発見します。
この巻は89年のものですが、僕の記憶ではこの5年くらい前に、似たような「おまじない」が流行っていたように思います。女子のみなさんが、日毎に変わる幸運の色と方向の一覧表や行動の指針を下敷きに入れているのを、何度も見ました。意中の人の髪を煎じて飲むとか、そんなこともあったかも。89年当時にも再び盛んになっていたのかもしれませんが、こういうのを好む精神性は、ずっと継続してあるものなんでしょう。
で、その「おまじない」はすぐに後退し「手相」、次に「レイコンさん」が登場します。ハチベエにその「レイコンさん」を紹介した弘子ちゃんによると、「死者の霊魂を呼びだして、そのひとに、いろいろうらなってもらう」のだそうです。これ、僕の小学校では「エンジェルさん」でした。つまりは「こっくりさん」の亜流です。亜流というのは、例えば「由緒正しいこっくりさんとは違い、赤ボールペンでやれば怖くないやさしい霊が来る」という俗信や、盤に「好き・嫌い」という表示があったりするわけです。
僕がやったエンジェルさんでは、古代ヤマトの女王が降りて来て、帰っていただくのに半日かかってしまいましたが、この巻のお話は、そんなマヌケなことは起こりません。
「レイコンさん」は、三人でやるものなんですが、霊を呼び出せる桐生寿美子さんがいないとできないそうです。寿美子さんは、中学一年生ですが、今でいう引きこもりです。
もう「占い」なんて甘いものじゃありません。霊媒の登場で、暗いオカルトの世界に入っていきます。将来の仕事(八百屋)や算数テストを占ってもらい、ハチベエは完全に信じてしまうのですが、このレイコンさんが、大事件を引き起こします。
クラスメイトの幸子ちゃんがなくしたペンダントの在り処を、レイコンさんが言い当ててしまうのです。同じクラスの絵美ちゃんのカバンの中です。大騒ぎするハチベエ。窃盗容疑を否認する絵美。騒動はすぐに、クラスの女子を二分する争いに発展します。絵美の動機が推理され、さる紅顔をめぐる幸子と絵美の三角関係が取り沙汰されるようになります。つまり、お話の相貌はここで推理モノに変わっていくのです。
で、ハカセ登場です。短絡ハチベエに代わって事件解決に乗り出します。どうやら絵美は真犯人ではないらしい。では誰の犯行なのか?あるいは幸子の自演なのか?
そうこうするうち、女子のいがみ合いが、呪いの人形事件にまで発展します。呪われたのはハチベエと幸子。机の上に黒い紙人形が置かれていたのです。「黒魔術による影の呪い」とのこと。推理モノからまた怪しい世界に戻ってしまいます。呪いが成立するのは満月の夜だけだそうで、残された四日のうちに呪いの阻止と事件の全容解明がされなくてはならなくなったのです。
捜査の過程でハカセは、弘子や絵美が通う進学塾「栄光塾」に注目します。成績順に「重役」から「平社員」までの序列がつけられる厳しい塾で、通ううちに「だんだん性質がねじれていく」ような塾とのこと。生徒同士の妬みがひどく、呪い人形もこの塾で流行っていたという事実をつかみます。昨年にはノイローゼになってしまった子もいたそうで、それがなんと、自称霊媒の桐生寿美子さんだったのです。人間関係が整理されてきました。お話は再度、ドロドロ人間ドラマに転換します。
解決編は、桐生寿美子さんの部屋が舞台です。金田一探偵のように、揃った当事者を前にしてハカセが真相を明らかにするのです。レイコンさんはインチキでした。読者はここで、栄光塾に端を発する欲と嫉妬にまみれた愛憎劇が、整理して語られるのだと予想して読むわけです。ドロドロ人間ドラマの解決編なのですから、「崖の上の自白」を見る気持ちです。もう小学生らしさの欠片もない、女のぬらぬら情念。
ところがなんと、ここに来てさらにお話の相貌が変わるのです。競争意識に踊らされた愚かな人間の物語ではなく、サイコスリラーになってしまうのです。「女の嫉妬」なんて超えちゃいました。異常な人の異常な精神が暴かれるのです。破壊された心と、それにつけこむ心。人格の乗っ取り。児童書とは思えません。現在ならつい「共依存」「心の支配」とかいう語が浮かびそうな真相です。「羊たちのジョディフォスター」よりも早い時期の、王道を行く児童書で、サイコスリラーを読むことになるとは思いませんでした。「競争心で勉強すると頭がアレになるよ」という教訓なんか飛んでしまう後味の悪さ。どこが「占い」なんでしょう。貪婪婦人がズバリ言う話の方がずっと健康的です。オーラ拝見よりも救いがありません。
…というお話です。占い-オカルト-推理-魔術-人間ドラマ-サイコという流れ。こんなの消化できる小学生は、大きくなって何を読むんでしょう。鏡花をはじめ、浮かんでくるのは、どれも昼間に読めないようなものばかりです。…そんな世界の入り口にもなるズッコケ。あなどりがたし。
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