ズ28 参上!ズッコケ忍者軍団
第28巻。93年12月刊です。
タイトルには「忍者」とありますが、おおよそ忍者のイメージとは遠いお話です。華麗なる忍術も、忍びの家に伝わる秘技も出てきません。
ただ、全編バイオレンス一色です。しかも清々しさのまったくない、いやあな気にさせるバイオレンスです。
ときは夏休み。お話の舞台は、花山町の奥の、人家もなくただクヌギの木が密集する八幡谷です。ここは、代々花山第二小学校の子供らにだけ伝えられるカブトムシの採集地なのです。この谷で、モーちゃんの後輩の五年生二人が「ドラゴン部隊」を名乗る集団に「スパイ容疑」により一時拘束され暴行を受けるところから始まります。
ドラゴン部隊とは、主に隣の花山第一小学校の子らで構成される武装集団で、八幡谷に秘密基地を構え、エアガンを装備しトランシーバーで互いに連絡をとりながら谷の全域を占拠しているのです。
暴行事件を聞いた三人組がとりあえず視察のために谷に行くも、武装兵に囲まれてしまいます。その後、組織のリーダーである中学生とも話し合いが決裂。ここにドラゴン部隊と第二小軍団という両セクトの闘争勃発が決定的になります。
ハチベエはさっそく片端から電話をかけ仲間(同志ともいう)を募り(オルグともいう)、すぐに三人組を含む十三人で構成される「タイガー部隊」を結成します。来る戦闘に備え、装甲車や投石器や爆弾などの製作がすすめられます。ちなみに、これらの武器ですが、ドラゴン部隊と同じく「微笑ましい子供のおもちゃ」の域を軽く超えています。武器開発や作戦会議の場に抑制を効かせるのは予算しかないという事実が子供にもよくわかるようになっています。
で、とうとう第一次全面衝突の日がやって来ました。…惨敗です。ハチベエ率いるタイガー部隊は壊滅。あろうことか、ハカセとモーちゃんが捕虜になってしまうのです。
そして、ここがこの巻最大の衝撃シーンなのですが、この虜囚二人、なんと丸裸で解放されるのです。児童書とは思えない陰惨さです。縛りつけて人質にするとか、射撃訓練の的にするとか、ひどくてもその程度かと思ってたところにこの陵辱。子供は怖くないのでしょうか?性的辱しめを受けたハカセのお尻の絵は、見る者の心を鉛色に曇らせるはずです。
好戦的な集団、人里はなれた山中でのキャンプ、軍事演習、敵対集団との闘争、ときてこの私刑ですから、非ズッコケ的な何かを連想させられそうにもなります。お話としては、ここはまだ捲土重来を期した第二次全面衝突というクライマックスを控えたところなのですが、もう何のお話なのかわからなくなってきます。ここで第三勢力として教師軍団が登場し、放水車や巨大鉄球による制圧を敢行しても不思議ではない雰囲気でした。
…このように、狂気を秘めたようなバイオレンスに終始する巻です。前巻で暴力に対する構えやその軽やかないなし方を描き、多くの小学生に平和な渡世のヒントを与えたはずのズッコケが、すぐ次巻でこれです。まったく意図の解せない巻でした。
残念です。暴力性を回避できそうな主題はいくつかあったのです。
例えば、ドラゴン部隊のリーダー。彼は大人の目につかないところで小学生を従え、武闘訓練の指揮だけではなく勉強も教えたりする、ちょっと陰湿な中学生なのですが、歳下の子としか遊ばない子というのは、いくらでも深められるキャラだったと思います。
もう一つはカップラーメンです。タイガー部隊の兵士たちが、テントの中で昼食としてカップラーメンを食べる場面があるのです。
あまり言われないことですが、初めての屋外カップラーメンというのは、人生の美味ベスト10に確実に入るほどの貴重な体験なのです。ちょうどガキんちょから生意気なお年頃になる頃のことです。駄菓子ほど子供くさくなく、お弁当のように母親を感じさせず、ちょっとだけ不良の香りがする、そういうカップラーメンは、小さい頃にも大人になってからも味わうことができないものです。小学五年では早すぎ、高校生では手遅れです。僕は、公園の高い遊具の上で盆踊りを見おろしながら食べました。親に隠れて水筒に入れてきたお湯で作ったのです。
こういうカップラーメンへの誘いがもっと語られてもよかった。初煙草を経験する機会を持たなくなっていくご時勢ですから、初カップラーメンの重要度は昔より増しているはずです。女の子に縁のない男にも青春の輝かしい味があるということを体験的に知ることの意味ははかりしれません。また、この輝かしいカップラーメンの記憶を持つ人は、自分の子供にも体験させるため、子供がその日を迎えるまではコンビニ弁当などからできるだけ遠ざけ、食=メイドイン自宅台所という観念を徹底して植えつけさせようとするはずです。食育がどうたらは知りません。すべては初屋外カップラーメンを際立たせるためです。
このように人生を豊かにし次世代にもよい影響を及ぼすカップラーメンの主題をズッコケが見落としたことは残念でなりません。組織暴力の盲目性を見た思いです。
最後に。
で、どこが忍者なのか?という疑問もおありでしょう。「忍者」らしさは、タイガー部隊の兵士につけられた名前に登場します。
曰く、伊賀の小猿、根来の三吉、風間正太郎、つぶての浩司…陽炎、胡蝶、夕霧という名前もあります。これだけです。他には忍者のにの字も窺がえません。
そりゃ『われらがズッコケ山岳闘争』とか『ズッコケ花山砦攻防戦』なんてタイトルをつけられないだろうとは思いますが、忍者ファンの子はがっかりしたことでしょう。『にんじゃのひみつ』のような内容を期待していた子が不憫ですね。これからの方は、水面を歩ける板の作り方や木の芽を飛んでジャンプ力をつける方法などは書いてないことを承知のうえで読まれるといいと思います。
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