ズ32 ズッコケ愛の動物記
たくさんの動物を飼うお話。
佳作です。
昔こういう本を読んだことがあったなあ、と懐かしくなりました。これまでのズッコケにはなかったテイストですが、児童書におけるウェルメイドの典型の一つです。
お話は、入学式の日の午後、新六年生のモーちゃんが捨て犬を拾うをところから始まります。かわいい子犬です。でも、モーちゃんの家は団地の市営アパートなので飼うことができません。近所や学校の子にも飼ってくれる人がおらず、結局ハチベエの提案で、駅裏の廃工場で飼うことになります。命名ムック。三人組が分担して、登下校時にエサをやることにしたのです。しばらくしてムックは引き取り先が見つかってもらわれていきますが、入れ替わるようにして廃工場にいろんな動物が持ち寄られてきます。ニワトリ1、ウサギ2、リスザル1、アオダイショウ1。クラスメイトの家や学校で持て余された動物たちです。持ち寄った子らも飼育に加わります。スペースも廃材も豊富にあるので、小屋や囲いはたくさん作ることができます。そこで「動物園計画」がハチベエの頭に浮かぶようになります。一人百円、全児童で七万円也。もちろん実現しません。ハムスター、ジュウシマツ、カメ、ヤモリと、動物が増えてきたところで、工場跡地の売却が決まり追い出されて終わり。動物たちは花山町の野山や各家庭にかえされておしまいおしまい。
で、どこがウェルメイドなテイストかというと、概して「静か」なのです。
この巻ではとくに事件も起こりません。明かされるべき謎とか発見されるべき宝とか解決されるべき争いといった、物語の持続を担うようなものがないのです。それだけではありません。ストーリーのなだらかさに照応するように、登場する子供たちも静かなのです。口数も少なく、また話すときも穏やかなやりとりばかりです。この「静かな子供たち」の姿が、たいへん懐かしく思えました。それはべつに、昔の、派手な展開を避けた児童書らしさを久しぶりに見たからだけではありません。大人よりも子供の方がしばしば静かなのだという事実を思い出して懐かしかったのです。
子供がギャーギャーうるさいのは、教室とか新幹線の中とか、空間や風景が限られた場所に於いてだけです。誰でも経験があるはずですが、本来子供は、四六時中周囲に心を奪われ言葉を失っているものです。
この巻では、ほとんどの場面が、子供たちが互いに向かい合わず、輪になって中心を眺めているという構図になっています。中心にあるのは、統御しきれない物言わぬ動物たちです。この構図が、子供の頃によくあった、穏やかさと充実が並存する時間を想起させてくれます。みんなと一緒にいるのに、互いではなく共に別の何かに夢中になってるような、決して一人ではないと確信しつつも一緒にいる子にはまったく配慮がない、こんなふうだったなあと微笑ましくなりました。
そして、非生産的な言辞やストレスというのは、相手の顔しか見てはいけない場で発生するのだという事実にも、同時に思いあたったのです。
相手の顔ではない何かに目を奪われ言葉が追いつかない状態を共有するような会話。こういうのはもう大人には経験しにくいものです。ストレスだらけもむべなるかな。
相手を見ないで話すといっても、ダラっとテレビを観ながら「この女優って離婚したんだよね」などと話すのは違います。怠惰を共有しても忘我の境は遠いままです。
目は奪われたまま、適当な言葉は出てこず、間に合わせの片言と生唾を飲む音だけが交わされるような場。悪友の家で成人ビデオを何人かで鑑賞したのが最後、という人が多いと思います。大人になっても経験してる人なんて、敵国の報道番組を見ている国家元首と補佐官、くらいしかイメージできません。
そう考えてくると、巷間よくあるような、思わせぶりな空虚が「癒し」を自称するのは嘘ですね。「相手の顔」から人を解放するのは、複数の意識を同時に捕らえて放さない過剰な何かしかないはずです。また、対人関係がストレスの元だとしても、お人形を相手に会話したり性交渉をしたりする人がいるそうですが、それも違います。そういうのは仮構された孤独か余裕ある擬人化によるのであって、たいした充実は得られないはずです。
一人ではなく、だけど互いではない何かに心を奪われその濃密な境地を共有する、そういう機会にかつて恵まれていたことを、動物を囲むハチベエらを通じて思い出し、その貴重さを再認しました。ストレスの元にならない「ウザくない他人」というのは、薄味の人格ではなく、共に意識をさらわれるような濃い環境によって成立するものだと、今さら思い出したわけです。
……とまあ、世知辛いこの年の瀬にこうやってグダグダ考えるくらいしか大人にはできないもんだろうかと、グダグダしてしまいました。で、大人にも何か、他の大人と共に思いがけず存在を賭けてしまうような、過剰な予測不可能性といったものはないもんだろうかと考えていたのですが、ありました。子供です。
来年も世界中でいい子がたくさん誕生しますように。
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