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2009年2月24日 (火)

ズ33 ズッコケ三人組の神様体験

Back33第33巻。96年7月刊です。
もう十年以上も前のことですが、96年に「神様体験」とくれば誰もがああと思ったはずです。地下鉄に毒が撒かれヒゲもじゃ教祖ら一味がお縄になった翌年です。考現学的興味や諷刺衝動に駆られた人がどのチャンネルや誌面にもいた頃ですから、ズッコケまであれか、と受けとられたことでしょう。あれ、というのは宗教とか狂信のことです。現代の諸問題はすべからく信仰とカルトの問題であるべしってな風潮だったのです。今は「市場経済」の語に置き換わってしまいましたが。

で、内容です。想像したほど浮世の騒ぎを反映したものではありませんでした。三人組が地下教団に潜入するとか、あるいは教団を設立して蓄財と謀略に励むとか、そういうことは一切ありません。
秋祭りのお話です。花山駅前商店会が、花山八幡神社のお祭りに合わせた客寄せイベントとして、手づくりおみこしコンテストを催すと決めるところから始まります。ハカセのアイデアを、八百屋の長男ハチベエが父親に提案したのです。賞金は十万円。三人組のいる六年一組の有志も参加することになります。八幡神社は隣町にあるので、花山第二小学校の子らは一度もおみこしをかついだことがなく、はじめてのおみこしというわけです。一方、花山八幡に大昔から伝わり戦前に絶えていた「稚児舞い」の奉納が、氏子総代の呼びかけで復活することになります。古いフィルムが見つかり、男の子らが剣を持って踊る、神楽のようなその振り付けがわかったのです。この稚児舞いの演者の候補にハチベエも加わることになり、隣町の老人が指導する練習に参加するようになります。と、学校でのおみこし作りとハチベエの練習とが並行して進むのですが、妙なことが起こります。ハチベエの頭がよくなるのです。商店会事務所でちらっと見ただけの、おみこしコンテスト参加団体リストをさらさらと暗誦したりします。そして、なんと漢字テストで満点をとるのです。ハチベエのくせに。ここで、一つの噂話がまことしやかに語られます。それは、戦前稚児舞いが中止となったいきさつを巡る噂です。稚児舞いを踊る子の体に神様が入り、ときにそのまま出ていかなくなるというのです。憑く、というわけです。おかしくなっちゃった子が何人も出たので、稚児舞いは封印され誰も多くを伝えたがらなかった、と。町の老人には、あれは集団食中毒があっただけだと言う人もいます。しかし、本当に神がかり体験だったのだと述懐する老人もいます。それに、ハチベエが唐突に頭脳明晰になるなど、まさに神がかったとしか思えません。さらに、舞いの練習中に一人の子が失神するという事件も起こり、もはやハチベエはシャーマンへの道を進んでいるかのように、ハカセらは危惧します。
そして迎えたお祭りの当日。あっけなく終わりませんでした。とりたてて非凡なところなどないうるさいちびっ子で、およそ巫覡的な資質など持たないハチベエにすら、神様が降りてきたのです。太鼓と笛の音と剣舞の極みの瞬間、完全な静寂がハチベエを包むのです。ハチベエは宇宙にいました。地球を見下ろしているのです。ハチベエがたった一言つぶやきます。ネタバレは避けますが、なかなか味のある一言です。忙しい人はこの台詞だけでも読むといいでしょう。そういう人のためにこの部分だけ太字になっています。
…と、こういうお話です。もちろん、ただ失神していただけのハチベエは、病院で目をさまし俗に帰ってきます。ハチベエらしい頭脳も戻ってきました。

新興教団や世捨て信徒が出てこない点で、当時喧しく語られていた「当世の若者と宗教事情」を敷衍したものではありませんが、それでもそんな世相を横目で睨んでいるところはあります。
このお話には三つのズレがあります。教義ぬきの宗教、イニシエーションぬきの脱俗体験、宗教ぬきのおみこし、です。おそらく、この三つがキモです。意図されているのは、もちろんアニミズム的原点回帰の勧めではなく、ましてやカルト予防でも一切の「宗教的なもの」の相対化でもありません。もっと穏やかで日常のベースに溶け込める、子供の丈にあった宗教観です。宇宙、幽体離脱、狐憑き、民俗伝承、超越存在、を統合したイメージの提出ともいえます。ハチベエが天上から地球を見下ろすイラストはかなり印象的です。『宇宙からの帰還』という、もじゃもじゃ頭のジャーナリストが宇宙飛行士にインタビューした本を思い出しました。裏山と鳥居と地球の外を結ぶ世界像、風土に馴染んだ、人生を棒にふる危険がない無料の神秘観です。騒がれすぎたことで矮小化され固くなっていた宗教全体のイメージを少し溶かすストーリーでした。

といっても、当時はとくに、オカルトや宗教じみたお話を敬遠する向きもあったことでしょう。そこはそれ、学校図書室の王ですから、その辺りへのフォローもしっかりとあります。幻覚のような体験は首を激しく動かすことで脊椎に過度の負担がかかり自律神経にも影響を与えたせいであり、気絶は鞭打ちによるものだと、宮司の幼なじみの医師が結論づけるのです。あまりにミもフタもない、高音の理工学部教授的オチですが、まあ、これもバランスでしょう。親御さんも安心できる一冊ってことです。

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