ズ34 ズッコケ三人組と死神人形
…野心作です。よく言えば。
事件ものですが、これまでのとはずっと趣が違います。本格ミステリー風なのです。で、本格ミステリーとズッコケは合わないだろうと素人はすぐに考えてしまいそうですが、事実その通りなのだと確認できてしまうあたりが、野心的なのです。
本格らしく、本筋に先立ってものものしいプロローグから始まります。それぞれまったく関係のない三件の事件が語られるのです。仙台の会社社長、大阪心斎橋のブティック店長、都心在住の有名俳優の突然死。いずれも事故として処理されたのですが、死の直前に何者かから三十センチ程の死神姿の人形が届けられていた点が共通しています。互いに遠く離れているため、誰もこの共通点に気づいていません。
で、お話が始まります。今回の舞台は、年の暮れ、雪山の最奥にある山荘です。オーナー主人は、ハカセのお父さんの元部下で、三人組はスキーをしにやって来たのです。山荘の客は、三人組の他に、四人連れの女子大生、写真家と助手、そしてこの山荘に出資した悪徳金融会社社長が妻とスキーコーチを連れて来ており、主人夫婦と二人のアルバイト(地元の兄妹)を含め、十六人が居合わせています。写真家は横柄で口が悪く胡散臭い人物。出資者の社長は悪徳経営が破綻したばかりで、債権者や警察から逃げて来ているところです。で、これだけのメンバーが揃った日、この山荘に死神人形が届けられるのです。スキーコーチが死神人形と不審死にまつわる噂を披露し、皆を怖がらせます。「これがその死神人形と同じものだとは限らないよ」などと語り合い、「何も起こらないといいね」と口々に言われたその夜、もちろん起こります。火事です。深夜に裏の倉庫が全焼。悪徳社長の焼身自殺と推定されるも、はっきりしません。電話線が焼き切れ、スノーモービルや車も破損し、さらには豪雪で町との往来が断たれ、山荘は孤立してしまうのです。本格ミステリーですから、事件は続発します。次は密室の事件です。写真家の凍死体が発見されるのです。悪徳社長の件が自殺に見せかけた殺人だったとすると、最も怪しまれたはずの男の容疑が消えたわけです。酒に酔って窓を開けたまま寝てしまったのか、それとも…。ベッドの脇に、前夜から無くなっていた例の死神人形が発見されます。これはもう、明らかに予告された死、何者かが仕組んだ事件だということになり、山荘内に不安が広がります。
で、次の第三の事件で犯人が判明します。ネタバレを避ける意義を感じませんのでちゃっちゃと書いてしまうと、女子大生の一人、美人の礼奈さんが犯人です。天候回復後に到着した警察がちゃっちゃと解明してしまったのです。礼奈さんは皆の前で犯行を自供し、直後に服毒自殺してしまいました。で、終わりです。…驚きました。唐突な解決です。推理もへったくれもありません。
構成的破綻、などというマイナーな劇評のような下品な言葉さえ浮かびかけてしまいました。この終盤は本格ミステリー的世界とズッコケとの軋みかと思います。
多少とも他のミステリーを読んだことのある大人だから物足りないのであって、児童書しか読んでない子にとってのミステリー入門としてはいいのかもしれません。イギリスの古典を読み、大人用乱歩で心に粘り気を生み、SF風味に刺激され、横溝で田舎観が変わり、時刻表が数字の羅列とは思えなくなり、同時代最新作のアイデアに踊り、通を自認する頃『虚無への供物』で唸る…というルートの入口ということです。
確かに、雪山の山荘というのは基本的な舞台です。集まった人たちも過不足ありません。これから起こる事件に下世話な動機を感じさせないための、オカルト風味の小道具もきっちり押さえてあります。いかにも恨まれてきた男といかにも怪しい男の死が続くのも定番と言えましょう。犯人の動機は復讐と罪のなすりつけ、というわけです。悪徳ジジイに恨みを持つといえば、不動産詐欺で一家離散の過去などの裏ストーリーが想起されますが、復讐の誓いを胸に成長したキャラとしてうってつけの兄妹もひっそり登場させています。そして、結局犯人はいちばん深みのなさそうな若い美人だったという「様式的意外さ」で締められています。
なるほどこう見ると、ミステリー入門でありそうなのですが、やはり不満が残ります。
まず第一点。ズッコケじゃなくてもいいのでは。むしろ…ということです。本格ミステリー的世界にあって場違いなのはモーちゃんだけではありませんでした。まるで重厚な演技巧者で脇をぎっちり固めすぎたアイドル映画のようです。
第二点。正統らしいストーリーでありながら、犯人の動機だけが妙なのです。女子大生礼奈さんの明るい表情の奥には、積年の恨みも、忘れられない辱めの記憶もありませんでした。なんと彼女は、ある「秘密の組織」の一員なんだそうで、その「組織の掟」により、死神人形の送付と殺人を遂行したというのです。なんだそれ。何を目的とした何という組織なのか、なぜ人形なのか、毒飲んじゃったから全く明らかにされません。
僕は脱力しましたが、子供は喜ぶのでしょうか。
あるいはこれは、続刊への壮大な伏線、ネタ振りなのではとも考えてみたのですが、しっくりしません。おそらく以下の巻でこの組織の全貌が明らかになることはないでしょう。読者諸君も楽しみにしようがありません。そもそも死を招く死神人形は不幸な人のもとを巡っているのではなく、その都度作られているのです。「多くの無念を吸い取った人形が今もどこかに…」という空想が許されないわけです。使い捨ての量産品ですから。それは組織の末端で機械的に製造され梱包されているだけです。とりあえず母親の裁縫箱を疑うくらいしかありません。
というわけでズッコケ入門としては薦められない一冊でした。
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