« ズ34 ズッコケ三人組と死神人形 | トップページ | ズ36 ズッコケ三人組のダイエット講座 »

2009年4月 5日 (日)

ズ35 ズッコケ三人組ハワイに行く

Back35 第35巻。97年7月刊です。

ハワイに行くお話です。
ガムの包装紙を十枚集めて応募する「ハワイ三名様ご招待」に、モーちゃんが当選するのです。
三人がどこかに行って帰るお話といえば、第24巻。あの修学旅行を思い出しつつ読み進めました。

巻頭、モーちゃんが当選するくだりに続き、パスポートの申請に必要な書類や各種手続きなど、実践的な「海外旅行マメ知識」に頁がとられます。小学五年生のうちに申請すると手数料が半額ですむそうです。小学校業界での超メジャー書籍で紹介されたのに「五年生の誕生日プレゼントにパスポート」が流行しなかったのが不思議です。パスポートの次は海外旅行必携品の準備、新幹線のぞみ号、成田エクスプレスと続き、巻の四分の一を過ぎてとうとう出国することになります。

どうやら本当に「行って帰る」お話らしいと察せられたのですが、僕は修学旅行の二の舞を心配するのとは別の感慨の中にいました。
それは、ああ、このお話は長いシリーズの中のひとつなんだなあ、ズッコケシリーズは安定期にあるんだなあ、という感慨です。ズッコケは大河ドラマではないので、各巻を通して時間は流れません。また、読みきりとはいえ、設定は全巻で維持されるので変化することはありません。三人の誰かが転校してしまうこともありえないわけです。ドラちゃんがどんなに革命的なアイテムを出そうと、最後にはオチがついてノビ少年の能力や社会的ステータスが元のままにおさまるのと同じです。トンカチで叩かれた大きなコブが次のコマで治る漫画よりもさらに自由度の少ない児童書において、「どこかに行って帰る」お話というのは、始まりと終わりに変化をもたらさずにバリエーションをとる一般的手法なんだな、と。ああ、そういうことなのかと思ったわけです。で、「行っては帰る」「五十巻」「お定まりキャラ」「安定シリーズ」といえば、わが日本にはフーテンのタンカ売映画があります。かの名シリーズも、甥っ子の成長を除けば変化のない、旅とマドンナで彩りを変える名作群です。

このアナロジーは、大人になってからズッコケを読む場合の特権のようなものです。これに気づいた人は、寅的安心感とマドンナの影の中で読み進めることができるわけです。だから、ハワイ到着後に出てくる「真珠湾の歴史マメ知識」など、サラーッと流れていきます。(ちらっと横目に入っただけなので詳しくは知りませんが、この「真珠湾の歴史マメ知識」に意義を見出したらしいどなたかが、その受容を「解説」と称し巻末で開陳しているようです。「コムツカシイことはいいから燃えるような恋をしなよ」という声が聞こえない、特権に恵まれなかった不憫な方なのでしょう)。

お話は予想通り展開します。マドンナが登場するのです。日系4世のキャサリンちゃん。迷子になった三人組が、彼女とパパのジャック有村に助けられるという出会いです。そしてなんと、このキャサリンちゃんの有村家とハチベエの家との奇妙な因縁があきらかになるのです。時は明治末。花山町にいたキャサリンの曾爺さんが、八百屋を営むハチベエの曾爺さんから許婚を奪いハワイに駆落ちをしてきたというのです。燃えるような恋は百年前でした。親が一方的に決めた縁談とはいえ、婚礼の五日前に出奔したことを曾祖母さんも気に病んでいたそうで、消息のわからなくなった八谷氏のことを心配し、子や孫に何度も話して聞かせていたというのです。有村氏にとっては、その八谷良吉さんの曾孫とハワイで遭遇したことに何かの運命を感じます。そして唐突に、ハチベエの縁談まで話はすすみます。過去の償いの意味でも、将来有村家の婿養子にどうか、というのです。有村家はハワイでホテルやゴルフ場をいくつも経営する家です。降って湧いたような幸運。八百屋の跡取から大富豪への転身、美人妻キャサリン…。

ここで安定感が揺らぐ読者もいるでしょうが心配ありません。例のタンカ売映画でも、主人公はマドンナだけでなくしばしば有力者に好かれます。社長とか市長、芸術家や大学教授などなど。でもけっして寅氏はフーテンをやめません。必ずオチがつくのです。
この巻でも同様でした。
帰国後判明したのですが、有村家と縁があったのは、同じ花山町でもハチベエ家とは別の八谷家でした。そもそもハチベエの家はもともと石屋で、八百屋に商売変えをしたのは先代だったのです。
つまり、養子も富豪も全部パー。理想的なオチです。
最後は、ハワイのじいさんと互いの早とちりを手紙で詫びて、また日常に戻ります。
「手紙による総括」と「日常」による締めといえば、まさにヤクザ兄貴が旅立った後の団子屋。一足違いで届いたマドンナからの手紙、堅実な妹がそれを読み上げるシーンを想起せずにはいられません。
安心感に包まれながらも、幾度も確認される類似に驚ける一冊でした。

|

« ズ34 ズッコケ三人組と死神人形 | トップページ | ズ36 ズッコケ三人組のダイエット講座 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/191777/44575336

この記事へのトラックバック一覧です: ズ35 ズッコケ三人組ハワイに行く:

« ズ34 ズッコケ三人組と死神人形 | トップページ | ズ36 ズッコケ三人組のダイエット講座 »