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2009年7月 1日 (水)

ズ37 ズッコケ脅威の大震災

Back37 第37巻。98年7月刊です。
地震のお話です。大地震です。花山町が壊滅的被害。
前々回に、ズッコケはシリーズを通して舞台設定が変化せず、舞台の変化は各巻のうちで元通りに納まると書きましたが、その法則が適用されません。最後まで、団地も八谷商店も再建されないのです。
おそらくこの巻は「番外編」のようなものです。次巻には地震被害などなかったことになってるはずです。

ストーリーらしいストーリーもありません。井戸の枯渇やボラの大発生といった前兆があり、数日後に大地震発生、三人組はじめ町内の人たちが避難所になった小学校で暮らし始める……というものです。非常時にあって助け合う家族の姿や友情の美しさなど、それらしい見所はあるにはあるのですが、なかなかズッコケを読んでいる気になりません。ちょうど防災パンフレットを見ているような気分になりました。

96年に出た34巻の宗教ネタがタイムリーだったのに比べ、この巻はそうではありません。宗教ネタが盛りあがったのと同じ年に全国的に知られた大震災がありましたが、すでに三年以上経っています。では、ここにきてなぜ地震なのでしょう。ストーリーの起伏より震災の細部描写に力点が置かれた意図は。……すぐに思い浮かぶのは、「地震被害の実態を、より正確かつ具体的に実感させるため」というものです。子供の世界にはよくある意図で、僕が小中学生のころは、この「地震」が「戦争」になったものがいくつかありました。大切なことなので当事者になったつもりでよーく想像してみましょう、というやつです。
しかし、もし本当にこういう意図があったとしても、僕にはほとんど効きませんでした。それは、僕が昔からそういう啓蒙的善意が苦手だったからだけではなく、地震について子供よりいくらか多くのことを知っており、ズッコケを通して地震を知る必要がない大人だからです。逆に、95年の大震災のことすら記憶の薄い子供たちにとっては、新鮮な情報がたくさん詰まった本ということになったのでしょう。
さらに、「戦争」とは違い「地震」のお話は、子供たちにとって、心のシミュレーション、現実に発生した場合のパニックを予防する効果も持つはずです。この巻が刊行された98年以降も、国内だけでも何度か大きな地震が発生しました。ある日突然家が倒壊し体育館や公民館に泊まることになったその夜、簡易布団の中で目をつむったその瞬間に、どんなことがその子の心に浮かんだか。おそらく、この巻を読んでいた子とそうでない子では、何かが違ったことでしょう。ああハチベエらもこんな感じだったなあと想起することが、まったく無益ということはなかったはずです。震災といえばジーパンキャスターの慇懃な被災者インタビューが浮かんでくる大人よりずっと平安が望めます。

というわけで、子供にとっては有意義たりうるものの、あくまで番外編的位置づけの巻でした。
大人には向かない、というより、大人が読むにはある種の想像力が要求される巻ともいえます。つまり、この巻のお話と、それが子供にとって非常事態の事前シミュレーションとして機能するさまを合わせて想像しながら、この巻の主題を自分に合ったものに変え、自分なりのパニック予防譚を頭の中で構築しておくという読み方です。ここまでしてやっと、大人の自分には既知の情報ばかりだった『ズッコケ脅威の大震災』が生きてくるのです。『ズッコケ大失業時代』とか『ズッコケ持株大暴落』とか『ズッコケ養育費攻防戦』とか…そういうのは自分の頭で描くしかないのです。大人とはそういうものなのでしょう。

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