ズ38 ズッコケ怪盗Xの再挑戦
第38巻。98年12月刊です。
「再挑戦」に「リターンマッチ」とカナが振ってあります。二度目の登場「怪盗X」は「かいとうえっくす」と読みます。
ひとつ前の第37巻のところで、「次巻では大震災はなかったことになっているはず」と書きましたが、地震どころか、舞台は第26巻直後まで戻ります。ミドリ市に現れた怪盗Xの一味が、三人組に犯行を阻止され逃走した事件の、その一ヶ月ほど後からお話が始まるのです。
つまり第26巻の続編です。「怪盗Xモノ」の第二弾というわけです。そして、ズッコケシリーズのタイトル一覧を見ると、怪盗Xモノは三部作になっていることがわかります。
第一弾(第26巻)のところで書いたように、怪盗Xは乱歩二十面相に類似した紳士ですが、何人かを従え組織的に窃盗を働いています。また、90年代も暮れ方の本ですから、怪盗VS小学生といっても、少年探偵団が自転車でパトロールをしたり腕時計型トランシーバーを駆使するわけではありません。今回狙われるのは、デパートで開催される「世界の宝石展」です。こういうあたりも、前回の「九条家に伝わる国宝級の茶器」に比べ乱歩風味から離れています。
今回の怪盗Xは、宝石だけでなく三人組への意趣返しを狙っています。彼らの家に犯行予告の電話をかけるなど、すでに怪盗Xは三人組をライバルとして見ているのです。再度犯行を阻止すべく知恵を絞る三人組、子供に出し抜かれるわけにはいかない県警、無事を祈り続けるデパート社長。世界に二つとない宝石に何かあれば国際問題に発展するとあって政府筋まで注視するなか、ついに怪盗Xの計画が実行に移され……というお話です。
実際に読めば誰でもすぐに気づくことですが、この怪盗Xシリーズは、ズッコケシリーズにいくつかある探偵モノや事件モノとは似ているようで全く趣きが違います。
三人組は探偵でありながら、隠されている手がかりや犯人を探ることが主軸になりません。予め知られた敵との競い合い、知恵くらべなのです。探るまでもなく最初から対象が同定されており、向こうもこちらのことを意識しています。この構造が、同じく犯罪をめぐるお話でありながらミステリー的世界とは一線を画しているのです。ミステリーよりずっと軽快で活劇的です。そして、こういうお話は、敵が初対面ではなく定期的に登場する固定したキャラになるほど味が出てきます。強拳殴打でふっ飛ばされるも何度も対決を繰り返す餡パンとバイ菌のようなものです。
ズッコケは長いシリーズですから、こういう、何巻おきかで登場する定番キャラが活躍できる余地がたくさんあったはずです。もっと早くに出てきてもよかった。定期的に登場する神出鬼没キャラとしては「怪盗」はうってつけです。「忘れたころに現れて宅和先生に憑依する花山町の浮遊霊」というのも僕は好きですが、怪盗よりも読者を限ってしまうことでしょう。
ということで、もう次回が最終決着編になるのがもったいないようなXでした。
で、このXの正体について、ハカセの推理が披露される場面があります。どうも最終決着編への伏線になりそうな、彩りの深まりを予言するような発言です。曰く、Xら一味は倒産した会社の同僚で結成されたグループなのではないか、とのこと。
これはある意味、タイムリー。ただの活劇的読み物にとどまらず、社会派的哀情まで誘いそうな雰囲気です。いよいよ楽しみになってきました。
こうして読者は最終決着編を待つことになるのです。純文学的な煽り文句で言えば、不況時代の寓話の予感とともに。
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